第2回(2010年8月9日掲載)
(医療従事者向けです)
高血圧症の薬物治療に、最近新しい波がおこっている。
二昔前まではACE阻害剤とCCBとの争いであり、開発した国、広めた国が第二次大戦時の連合国(米英)対枢軸国(独日)の図式だと言う穿った見方もあった。
しかし最近はACE阻害剤のほかにARBも登場した。臨床のエビデンスも積み重なり、酸化ストレスも緩和させると言うことが明らかになって連合国(ACEI、ARB)の勝ちといわざるを得ない。その上、RAA阻害薬の中でも新しい機序のくすりが登場している。
下に示したグラフをご覧いただきたい。これは当院における降圧薬の処方内訳である。(平成22年6月~7月期の当院電子カルテより)
RAS阻害剤(ARB単剤と合剤、ACE阻害剤)で全体の5割を、またCCBで全体の4割を、併せて9割をこの2系統が占めている。これは全国的な傾向と一致する。
そのなかで当院の特徴といえば、昨年から上市が始まったARB+利尿薬合剤の比率が比較的高いことかもしれない。
米国のガイドラインでは以前から降圧薬のファーストラインの一角を利尿薬が占めていたが、わが国では「古いくすり」とのイメージが強く、お年寄りには脱水を助長するのではないか?と言う危惧もあり、降圧薬としての利尿薬の使用は従来はあまり伸びなかった。
また合剤という発想自体が馴染みなく、くすりは極力単純な作用であるべしという私自身の思想もあった。そのため合剤には当初は心理的に抵抗があった。
しかし使ってみると、意外にも降圧効果にすぐれていた。
それだけ食塩感受性を有する患者さんが多いという東北地方の地域性もあるかもしれない。
また患者さんへのムンテラの際にも「くすりを増やします」というよりも「くすりの種類を変えます」といった方がすんなり受容してもらえる印象が強い。
更に当初懸念していた利尿薬の副作用的なエピソードもほとんど見られなかった。これは各メーカーの用量設定の妙味であろう。上市後一年が経過し、平成22年春頃から漸次、長期処方が解禁となってきた事情もあって、当院ではこの合剤のシェアが伸びているのである。
同じ合剤でもARBとCCB合剤も平成22年になって上市されている。使用経験は少ないが薬価上のメリットがあるように聞く。
またDRIは、新しい機序の降圧薬で期待出来る。東北大の小川准教授から先日話を聞いた。DRIのアリスキレン(商品名ラジレス)は当初から腎血流(GFR)を上昇させるそうだ。RAS阻害剤は投与初期は腎血流を一時的にせよ低下させて腎機能が悪化することがある。その昔ACE阻害剤を使い始めた頃、腎不全をきたした患者さんがいた。それがRAS阻害剤を使う上で従来の私を慎重にさせていた要因である。しかしアリスキレンなら安心して使えそうだ。
CCBはわが国の循環器科医の常で私も大好きであった。しかしよく知られた歯肉腫脹や眩暈以外にも、眠気や味覚障害など、QOLを低下させる副作用が少なくないことに気づいた。従って、私の降圧薬の処方中にCCBの占めるシェアは減ってきているが、依然として好きな薬である。
いずれにしても降圧薬の選択の幅が拡がり、患者さん毎にオーダーメイドの薬物療法が出来るようになってきたと実感する。単に降圧だけではなく全身的に酸化ストレスを抑制し、心腎脳の血管を保護してゆくことが究極の目標である。